時代に適応するデータサイエンティストの在り方|DS協会中四国支部イベントレポート

データサイエンティスト協会(DS協会)中四国支部の交流会イベントが広島にてハイブリッド開催されました。本イベントは、「データサイエンス×地方創生」や「生成AI時代のキャリア」などをテーマに、この領域の第一線で活躍するプロフェッショナルたちが登壇しました。会場には、データサイエンスに関心を持つ一般の方から実務担当者まで幅広い層が参加しました。熱気あふれる議論と交流が交わされた一夜の様子を、たっぷりとレポートしてお届けします!
開会挨拶:中四国地方全体をデータサイエンスで盛り上げる
まず始めに、支部長の菅より開会の挨拶が行われました。同支部は、データサイエンスの力を活用して地域の課題を解決し、中四国エリア全体の地域活性化を促すことを目的に活動しています。
この日のイベント開催地となった広島にフォーカスし、「若者の視点やキャリアの作り方、地元を支える企業側の視点など、多様なお話を聞いていただきます。」と交流会の趣旨が語られ、和やかな雰囲気で幕を開けました。

講演:激変するAI時代と地方への期待
続いて、データサイエンティスト協会の理事を務める黒木氏より、2013年の設立以来10年以上の歴史を持つDS協会の活動概要と、データサイエンティストに求められる「スキルチェックリスト」の大幅な改定について詳しい解説がありました。
生成AIの台頭により、従来のデータ分析領域は大幅な自動化やコモディティ化が進んでいます。それに伴い、データサイエンティストに求められる役割も根本から変化しているため、最新版(ver.6)では新たに「価値創造スキル」と「融合スキル」という大きな柱が定義されました。同協会のシンポジウムでも繰り返し強調されていた「価値創造スキル」では、ビジネス課題の解決にとどまらず、社会インパクトの設計やAIガバナンスを牽引するリーダーシップが強く求められます。また「融合スキル」においては、AIエージェントの実装やフィジカルAIの活用など、最新技術をビジネスプロセスに組み込む力が重視されています。
さらに黒木氏は、数理・データサイエンス教育が全国に広まり優秀な学生が増える一方で、活躍の場が東京など一部の都市に集中している現状への課題感にも言及しました。地元でスキルを活かしたい人を応援し、地方におけるデータサイエンティストの活躍の場を広げるために、各地方(九州、中四国、関西)支部を立ち上げたという経緯が語られ、全国各地のデータコミュニティ発展に強い期待が寄せられました。

基調講演:データサイエンス教育の軌跡と「風の谷」構想
安宅氏の基調講演では講演資料を使用せず、会場との対話を通じて参加者の聞きたいテーマに合わせて進行するという、ライブ感あふれる講演が繰り広げられました。
安宅氏はDS協会の創設者であり、日本のデータサイエンス教育を牽引してきた立役者でもあります。国の数理データサイエンスAI教育のカリキュラム策定にまつわるエピソードでは、文部科学省と度重なる議論を交わしながら、全ての大学生が学ぶべきリテラシーレベルをはじめ、応用基礎、専門家教育、さらにトップ1%のリーダー層教育レベルに至るまでの「ピラミッド構造のカリキュラム」を泥臭く設計・実現してきたという裏話が飛び出し、会場は一気に引き込まれました。

その後、話題は参加者のリクエストにより安宅氏の代表著書(「風の谷」という希望――残すに値する未来をつくる)へと展開し、「風の谷」プロジェクトの核心についても語られました。安宅氏は、「東京一極集中」「都市しかない未来」に対するもう一つの選択肢を創らなければならない。この問題は単なる「地方再生」や、「都会と田舎」といった図式の話ではなく、「密空間と疎空間の課題である」と訴えます。
疎空間が死んでいく要因のひとつとしてあげた “地方の求心力” においては、生きるための基本要件である「絶景・絶生・絶快」を満たすことの重要性を説きました。さらに、多様で異質な面白い人々が、それぞれの個性を失わずに混ざり合い、新たな価値創造が連続して起きる「珊瑚礁のような空間」を作ることが未来への鍵であると語りました。この成功例として広島の尾道を挙げ、空き家に面白い人々が集い、そこから予期せぬ出会いや価値が生まれているリアルな事例は、参加者に地域づくりの大きなヒントを与えていたように思います。

講演:広島へUターンした若者の奮闘
続いて登壇したのは、広島県三次市出身で、現在フルリモートで東京の企業に勤める若手データアナリストの丸石氏です。新卒採用で一度は上京したものの、地元広島での暮らしを最優先に考え、Uターン転職を実現した自身のキャリアについて語ってくれました。
実務の紹介では、「チョコザップ」の急速な店舗展開を支える会員数予測モデルの開発や、モデル運用を効率化するMLOps(機械学習の自動実行環境)の構築といった、事業の成長に直結する実践的なデータ分析の取り組みが紹介されました。また、新機能やサービス導入時の効果検証(A/Bテスト)においては、店舗特性の偏りを防ぐ要件設計や、適切なサンプルサイズの算出など、分析者ならではの精緻なアプローチが紹介され、現場のリアルな知見が共有されました。

後半には、「地元・広島でどんなデータサイエンティストを目指してキャリアを築いていくべきか」という等身大の悩みを打ち明けてくれました。データサイエンスの専門性を突き詰めていくべきか、あるいは他の分野と掛け合わせられるように簿記などの知識を習得し、ビジネス側に寄った幅広いスキルを身につけていくべきか。
現在、丸石氏は自ら分析課題の要件設定ができるよう、本業でのプロジェクトマネジメント業務に積極的に挑戦しているそうです。さらに、ビール好きが高じて宮島のブルワリーで醸造のアルバイトも始めるなど、異分野との掛け合わせも模索する日々だと語りました。
試行錯誤しながら「広島流のデータサイエンティストの形」を真摯に追い求める姿に、会場の多くの参加者が共感し、エールを送っていました。
パネルディスカッション:生成AI時代のデータサイエンティストとは?
最後に行われたパネルディスカッションは、参加者全員がグラスを片手に「乾杯!」というユニークなスタイルでスタート。リラックスした空気感の中、マツダ株式会社で全社のAI推進を牽引する中本氏も加わり、さらなるDSトークが始まります。

中本氏からは、マツダ社内で展開され、すでに40以上のテーマが動いているという実践的なプログラム「AI道場」の取り組みが紹介されました。現場の担当者が抱える困りごとを持ち寄り、時にはデータすらない状態から一緒にデータセットを作り上げていくという、現場に寄り添った姿勢が特徴です。具体的な成果として、まずは溶接時の電圧ビッグデータから車体の歪み原因を特定した事例を紹介。そして会場を驚かせたのがマツダ病院の保健師の方々のエピソードです。
3名の保健師が、プログラミング未経験、Pythonはもちろん、期待値って何?という状態から「AI道場」に参加したそうです。中本氏を含む、師範と呼ばれる導き手の指導の下、わずか1年で「働きがいを感じる因子」を見つけ出すことに成功し、見事に黒帯を取得。過去10年・社員20万人分の健康診断データやアンケートを分析できるまでになったと言います。現在では職場を活性化する「健康予測AI」を作り上げるまでに至っており、現場の熱意から生まれた目覚ましい成果に、会場から驚きと感嘆の声が上がりました。

続くQ&Aパートでは、参加者からSlidoを通じて、『AIがコードを書き、分析手法まで提案してくる時代に、データサイエンティストの生き残る道はどこにあるのか?』という核心を突く問いが投げかけられました。

これに対し、丸石氏は「AIの進化が早すぎる今、AIの出した答えを見極めるだけではいずれ代替されてしまうかもしれない」と率直な危機感を共有。「だからこそ、専門性だけに固執するのではなく、異分野の知識を掛け合わせることで、AIには生み出せない独自の付加価値を模索しています。ただ分析タスクを待つプレイヤーにとどまるのではなく、自らビジネス側に寄った考え方を培い、課題を設計できるデータサイエンティストとして広島に貢献していきたい。」と力強く語りました。
中本氏は「問題や課題を記述し、問いを立てる力が問われる」と回答。さらに、参加者への力強いメッセージとして狭間(はざま)はチャンスという言葉を送りました。「部署と部署、あるいはシステムとシステムの間に落ちている狭間にこそ課題の宝庫があり、その狭間をつなぐデータセットさえ自ら作ることができれば、あとはAIが解決してくれる」という言葉は、今後この領域でのキャリアを考える人たちへの重要なアドバイスとなりました。
菅はさいごに、「データサイエンティストというと、どうしても『コードを書く』『データを整形する』『モデルを作る』といった作業にフォーカスされがちです。しかしこれからは、自ら問いを立てて解決策を提示し、価値を創造する力が求められます。それこそが、まさに『スキルチェックリスト ver.6』を改定した理由です。新たな指標として、ぜひ活用してください。」と参加者へ呼びかけ、パネルディスカッションは幕を閉じました。
懇親会:交わる「異質」と生まれる「価値創造」
オンライン配信がおわると、会場は懇親会へと移行しました。防災関係者、行政職員、メーカーのエンジニア、牡蠣の生産者、さらにはAIスタートアップの起業家など、まさに安宅氏が基調講演で語った「珊瑚礁のような空間」を体現する、多様で異質なバックグラウンドを持つ人々がグラスを交わしました。それぞれが抱える地域の課題やデータの活用方法について活発な意見交換が行われ、ここから新たなプロジェクトや価値創造が生まれる予感に満ちた、有意義な夜となりました。
データサイエンティスト協会中四国支部では、今後も地域に根ざしたデータ活用の推進と、異なる専門性を持つ人々が混ざり合う「新たな出会いと価値創造の場」を提供してまいります。活動を共にしてくださる仲間も随時募集中です!ご参加いただいた皆様、誠にありがとうございました。





