【代表対談】ITエンジニア・データサイエンティストのこれからの採用と教育について

2030年問題を目前に加速するIT人材不足。エンジニアやデータサイエンティストなどのIT/デジタル人材の採用市況は売り手市場が続いています。この状況を背景に、企業が優秀な従業員を確保し続け、かつ組織力の維持/向上を図るために人材育成をするにはどうしたらよいのでしょうか。

今回は、「ITエンジニア・データサイエンティストの採用と教育」をテーマとし、株式会社 Rejoui 菅 由紀子氏とワミィ株式会社 伊藤 和歌子氏の対談形式によりお届けします。

写真左:菅氏  写真右:伊藤氏

菅氏はデータサイエンスを主軸としたAI人材育成事業やデータ分析・利活用事業を推進 、伊藤氏はエンジニア等のIT人材の採用コンサルティング事業やITリテラシー研修事業を推進しています。IT/デジタル人材市場に精通している両氏の独自の視点から、最新の市況に対する今後の動向や対策すべきポイントが論じられました。(以下、敬称略)

菅 由紀子(かん ゆきこ) 株式会社Rejoui 代表取締役

大学卒業後、株式会社サイバーエージェント、株式会社ALBERTを経て、2016年に株式会社Rejouiを創立。実務家データサイエンティストとして分析プロジェクトを指揮するほか、セミナ-登壇や教育カリキュラムの開発など活動は多岐にわたる。2021年には、米国スタンフォード大学ICME発のデータサイエンス人材育成シンポジウム 『WiDS』 公式アンバサダーとしての活動が評価を受け、日本統計学会統計教育賞を受賞。現在は広島大学の客員教授としても活躍中。地方創生にも注力しており、ひろしま好きじゃけんコンソーシアムのダイバーシティ担当副会長も務めている。

伊藤 和歌子(いとう わかこ) ワミィ株式会社 代表取締役

大学卒業後、ニフティ株式会社に入社。ニフティではシステムエンジニアとしてアプリケーション設計・開発やインフラの運用等に従事。
2009年より、京セラ関連IT企業の人事部責任者として、採用・育成・制度設計・労務・理念浸透・全社プロジェクト統括など幅広く担当。
2016年10月 ワミィ株式会社設立。
「エンジニアの力をすべてのチームに!」をコンセプトに、エンジニア出身チームがお客様企業の支援を行う採用コンサルティングサービスを展開。設立より多くの企業の採用コンサルティングを実施し、老舗SIerからスタートアップまで幅広い企業でのエンジニア採用実績を持つ。

1.最近のデータサイエンティストやITエンジニア人材のトレンドについて教えてください

-伊藤 ITエンジニアに関しては、年々というより、月を経るごとに売り手市場が加速していると感じます。例えば、Pythonが使えるエンジニアの場合、求人倍率が50倍となった時期もありました。

-菅 データサイエンティストも同様の傾向ですね。同時に、データサイエンティストになりたい人も増加傾向にあります。弊社でも面接を受けてくださる人が年々多くなってきていますね。
特に未経験者では、一回止まってしまったキャリアを再開するために、スキルトレーニングを受け、データサイエンティストとしてキャリアをスタートされる方が多いです。一方で、スキル習得や自己研鑽を積まずにエントリーされる方もいます。そのような場合はミスマッチ率がどうしても高くなってしまいますね。

-伊藤 ITエンジニアでも多いですね。売り手市場であるが故に、高給である、必要とされ続ける職種であるという認識が強く、求職者側もその理由だけでチャレンジしてしまう方もいます。中には、大量に採用できる事業者もいるので、中長期的に見たときにスキル習得を積まずに採用された人材が自身の価値を高め続けることができるのか、ということが課題だと感じています。

-菅 採用する事業者側の課題は、スキルの見極めだと思います。キャリアがあり、面接上でのスキルは十分であるのに、実際に就業してもらい手を動かしてみたらミスマッチだった、という例が多数ありますね。

-伊藤 御社では、スキルの見極めのために行っている対策はありますか? 

-菅 まずはエントリーしていただいた方全員にデータ解析とレポートの提出をしてもらっています。今後は仕事の成果や研究の論文なども提出してもらおうと考えています。

-伊藤 エントリーした方が実際身につけているスキルとそのアウトプットが、会社にマッチしているのかを見極めることが重要ですね。

2.社内で人材を育成するポイントやアドバイスをお願いします

-伊藤 経験値の高い人材は採用市場で人気が高く採用が難しいことや、採用できたとしても組織に定着しない可能性も大いにあるため、即戦力人材の採用活動と並行して、組織で人材を育成することも大事だと考えます。社内での人材育成が成功した例があれば教えてください。

-菅 そうですね。人材不足や組織定着の状況を鑑みると、組織内での人材育成が今後の鍵となりますね。
社内育成で成功した例としては、開発部門がバックアップを行いながら、若手で好きにAIを開発してもらっている所は上手くいっていますね。部門全体で見守ってくれているという安心感もあり、若手の伸び代が大きくなりますからね。そのような体制を取っている企業は人材育成の軌道に乗っていると感じます。

-伊藤 人材育成を人事部が引き受けているのではなく、現場を巻き込んでいくことがポイントとなりそうですね。

3.社内で初めてDX推進やAIの部署を立ち上げる際に押さえておくべきポイントはありますか

-伊藤 いわゆる「一人目採用」ですね。営業など非ITの分野でご活躍されてきた社長がサービスを立ち上げる際に、IT/デジタル人材の一人目採用はどうやったらできるのかというお悩みをよくお聞きします。まずは副業や業務委託で契約してもらいつつ、エンジニアの人にこの会社いいなと思ってもらうことがポイントかなと思います。

-菅 経験者を一人目で採用するのは非常に難しいですね。会社全体のITリテラシーが低い場合、知見のあるIT人材を採用できても、周囲との熱量のミスマッチが起こる可能性が高いです。一人目採用の前に社内に改革を浸透させること、つまり社員のITリテラシー教育の底上げが重要だと考えます。

-伊藤 昨今では、「DX」や「AI」という言葉だけが独り歩きしているような印象を持ちます。本当に自社でIT人材を採用する必要があるのかどうか、外部に任せるという選択肢でもいいのではないか、経営者が意思決定の岐路にある状況なのかなと感じます。

-菅 そのような意味だと、経営者自身のITリテラシー向上も大切ですよね。社内のDX推進をどのように進めていくかは、それらに関する情報がないと決めきれないと思います。今更聞けないこともあるかもしれませんが、経営層のITリテラシーの把握も従業員同様に行うべきだと考えます。

4.未経験からデータサイエンティスト・ITエンジニアにキャリアチェンジしたい方に向けて、メッセージをお願いいたします

-伊藤 よく、非IT・未経験からエンジニアにキャリアチェンジしたいというご相談を受けますが、これまで積み上げてきた経験業界の業務知識を分断してプログラマやSEを目指すのではなく、自分がいた業界×エンジニアリングのようにキャリアの掛け合わせをすることで自分にしかない武器とするのがいいと思います。
不動産や医療等、業界にいた人でないとわからない業界特有の知識や経験を活かせば強みになると思いますよ。単にプログラミングだけができるようになっても、要となる人材になるのはなかなか難しいかもしれません。

-菅 そうですね。データサイエンティストでも、自分が理解しているビジネスドメインで解析を行うことで、理解が深まりスキルが高まると思います。民間スクールでデータサイエンスを学び分析の操作ができるようになっても、高度な人材としてすぐに現場で通用するとは言えません。
輪読会、読書会など学んでいる人たちのコミュニティに身を置いたり、Kaggleにトライしてみるのも一つの方法だと思います。エンジニアに関してはいかがでしょうか?

-伊藤 エンジニアに関しては、フロントエンド、バックエンド、インフラのような大枠の分類があるなかで、一昔前と比較すると、それぞれ役割のボーダーラインというか、境界線が低くなっている印象を受けます。
例えば昔でいうと、インフラエンジニアだったら実際にハードの割当、必要ソフトのインストール等セットアップをする所からはじまり、その後の一連の仕事もする必要がありましたが、今ではAWSをはじめとするクラウド事業者がそれらの業務を担ってくれます。その延長線上としてSREのようなキャリアパスも考えられるのかなと思います。一つの役割に限らず、全方位的だったり、複数の分野で知見を得る必要がある時代になったのかなと。このように言ってしまうと、学ぶのが大変という印象もあるかもしれませんが、学びの市況もこの十年位で大幅に変化してきました。使用するツールや教材の見極めは必要ですが、YouTubeやアプリ、オンライン講座など学べる環境は格段に良くなっていると思います。

-菅 データサイエンス分野でいうと、大学等で行われる社会人向け講義などのリカレント教育の場所や機会が増えて来ていると感じます。社会人の方に是非目指してほしいと思います。

-伊藤 大学の学部も新設されたりしていますね。エンジニアがデータサイエンスを学ぶのもいいと思いますし、逆もありかと思います。

-菅 海外留学もありますね。語学も含め、様々な知見を蓄積していって欲しいと思います。

-伊藤 働き方についても、データサイエンス専業の企業もあれば、事業会社のデータサイエンティストとして働く等様々な選択肢があると思います。求職者の方には是非ご自身の興味のある業界やこれまで蓄積されてきた経験を活かせる業界に行って欲しいなと思います。

-菅 ゲーム業界のデータサイエンティストは特に人気なので、志望される方には特に頑張っていただきたいと思います。

5.採用担当者の方へメッセージをお願いいたします

-菅 求職者と企業の双方におけるミスマッチを防ぐためにも、求職者のスキル評価を行える体制をとっておくと良いと思います。業界標準のスキルチェックリストがあるので是非活用していただきたいですね。また、スキルをトレースできるような採用担当者を採用するのも良いと思います。また人材育成に関しては、インターンなどの内部の人材育成も視野に入れてください。また育成する際は人事側だけで育成するのではなく、是非現場と一体になって取り組んでみてください。

-伊藤 現場を巻き込んでというのはエンジニア採用も同様です。人事だけで採用活動を行っている場合、求職者にとっては現場部門が出てこないので大丈夫かな?と心配になる。そして採用することが出来たとしても、現場とのすり合わせが不十分なため、現場と新入社員の間でミスマッチが起こる可能性があります。是非企業の人事・採用担当の方には、全社で採用や育成を行い、当事者を巻き込んでいくことを意識していただきたいです。

参考(データサイエンティスト協会提供)

6.おわりに

客観的に見たときに企業/求職者が魅力的に見えるかどうか、自らの強みを認識できているかが、昨今の売り手市場を戦い抜いていくための大きな鍵となりそうです。

会社紹介

株式会社 Rejoui(リジョウイ)
主たる事業として以下の3事業を展開
1.データ分析・利活用コンサルティング事業
2.データサイエンティスト育成に関する教育事業
3.DX推進支援事業

「データでビジネスにしなやかさを」
データを利用したビジネスの加速が必要に迫られている時代において、データサイエンスの力で組織の変革に耐えうるしなやかさを提供したいという想いの元、組織に眠るデータと課題を結びつけ解決に導く。分析課題の整理や、高度な統計解析・機械学習を用いたアルゴリズム設計に加え、AI構築支援までをワンストップで提供。分析結果の単なるレポート化ではなく、組織ごとに異なるデータ背景に合わせた解決策の提示や、データに基づく論理的な意思決定ができるようサポートすることを強みとしている。

ワミィ株式会社
主たる事業として以下の3事業を展開
1.ITエンジニア/DX人材採用を主体とした採用コンサルティング、RPO事業
2.ITリテラシー研修・DX人材育成事業
3.人材紹介事業

この他、IT×エンジニア×採用というキーワードでインターンシップ支援や採用ピッチ資料作成などの事業も展開中。お客様支援の際は、エンジニア・人事出身者がお客様の専任チームとして担当。採用戦略設計/実行から実務、人事内製化まできめ細かく支援を行うことを強みとしている。

<本記事に関するお問い合わせ先>
株式会社Rejoui https://rejoui.co.jp/contact/
ワミィ株式会社  https://wamii.co.jp/contactform/

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