HR領域におけるデータ活用

100社以上のグループ関連会社を持つ株式会社サイバーエージェント。
企業データを利活用して分析コンサルティングを行なう株式会社Rejouiとともに分析プロジェクトを実施した。同プロジェクトの中枢人物であった サイバーエージェントの向坂 真弓氏 とRejouiの菅 由紀子氏が、実施に至った経緯や分析過程、結果について振り返る。
1500人以上の社員の人事データを人事組織としてどのように活用できるのか。


株式会社サイバーエージェント
人材科学センター 向坂 真弓

一橋大学社会学部卒業後、2003年にサイバーエージェントに新卒で入社。
インターネット広告代理事業の営業、マーケティング、SEMコンサルを経験。
現在は人事部門内組織である人材科学センターにて、人事データの収集や分析を行っている。

株式会社Rejoui
代表取締役 菅 由紀子

サイバーエージェントにてマーケティングリサーチ事業の新規立ち上げを経験後、ALBERTにて、データ サイエン ティストとして通販・製造業関連メーカー等様々な企業の分析プロジェクトに携わる。
2016年9月にRejouiを設立し、データサイエンティスト育成事業・独自の機械学習アルゴリズムを活用した学習サービスを展開。関西学院大学大学院ビジネススクール非常勤講師講師、データサイエンティスト協会スキル定義委員としても活躍中。

組織づくりの意思決定をスピーディーに実行する
「ファクトで語れる人事」の実現

菅:人事領域のデータ活用をRejouiにご相談いただくにあたり、当初はどのような背景があったのでしょうか。

向坂:もともと人事で取得したデータを分析して、人材の配置や採用の適正化に活かすという構想は会社として持っていました。人事部門の責任者である曽山(取締役 人事管轄 曽山哲人氏)はかなり前から「ファクトで語れる人事を実現する」というオーダーを私たちに出していました。
ですので、人事データの取得に早い段階で取り組んでいましたし、簡単な分析は自社でも行なっていました。

菅:多くのケースでは、人事データの取得段階からコンサルティングさせていただくこともあるのですが、御社の場合はすでにデータが揃っていました。
これはプロジェクトを進める上で、非常に効率的ですし先進的な御社ならではのお取り組みですね。
実際に、自社ではどのような分析を行なわれていたのでしょうか?

向坂: 弊社ではGEPPOという社員がそのときの気分を天気形式で入力する仕組みを導入して社員の状況を把握しています。うまくいっているときは「晴れ」。うまくいかないと感じたときは「雨」といった形で、社員が働く時の気分を入力します。それらのデータを一次情報としてさまざまな切り口で分析をし、特徴を探っていました。

例えば、部署異動したばかりの人の天気データの変化から不安要素を探ったり、若手社員の定着と天気データの関係性を検証したり・・・といった具合です。

ずっと「晴れ」が続いていた人が突然「雨」になった時の変化や、個人とチームそれぞれに対して評価された天気データの差分などから、組織の異変に早めに気づける状態にしていました。
こういった取り組みをきっかけに、さらに強力なファクトをもって組織づくりを行なうためには、より専門的な分析を行なう必要があると感じるようになりました。

求めていたのは人事活動への迅速な適用と、自分たちで継続運用できるようになること

菅:今回の分析において、Rejouiにお任せいただくことになったきっかけをお聞かせください。

向坂:今回の分析をパートナーにお願いするにあたって、決めていたことがいくつかあります。
一つは「分析で得られた結果を、スピード感をもって人事活動に活かすこと」。もう一つは「自社でも分析できる状態になること」。組織はヒトが変われば、そこにある課題も変わります。一度分析をして終わりではありませんので、いずれは自分たちで人材データを科学的に判断できるようになる必要があります。

菅さんにご相談して感じたのは、多くの人事データ分析の経験とそれらを裏づける判断スピードの速さをお持ちということです。当初は悩み相談レベルでの打ち合わせでしたが、現状のデータを使ってどのようなことができるか、自社でやる場合に必要な課題設計・分析に取り掛かる手順のご提案までしてもらえたのが非常にありがたかったです。

プロジェクトの過程では、私たちが自ら手を動かせるようになるために、一緒にデータを眺めながら統計ソフトの使い方、分析手法まで指南していただきました。

菅:分析手法の中には、やり方を覚えてしまえば日々の運用にすぐに応用できるものもあります。教わった方法をすぐにチームの運用に活かされていたあたりは、さすが御社のフットワークの軽さですね!

企業特有の事情を考慮して、よりリアルな「社員の感情」をあらゆる角度から推測する

菅:プロジェクトを進める際に特に気を使ったのは、サイバーエージェント様特有の要素によるデータへの影響でした。大きなものだと組織変更などがありますが、他にも御社特有のデータはいくつかあり、今回のプロジェクトではそれらをどのように扱うかが思案のしどころでした。

向坂:人事で取得しているデータの分析は、最初の仮説設計が非常に難しいです。ヒトを扱う部門なので最も大きな影響要素は「感情」なのですが、どの要素からそれを見つけ出すべきかがわかりませんでした。
そこに対して菅さんが、ご自身の経験を通じて専門家としてアドバイスをくださったのは大変ありがたかったです。勤続年数や入社時期によるヒトのモチベーションの差異などもその一部です。

菅:人事データの分析のカギは、まさにその細かい要素をどのように捉えるかという点にあります。分析の過程で特異なデータを見つけたら、それらを異常値として除外する判断を行なう前に、どのような背景があったかを確認すべきです。
今回のプロジェクトでは、その点を細かく教えていただけたので、分析の精度を高めることができました。

データ活用による採用精度の向上・グループ全体が自立した人事体制の構築へ

菅:今回のプロジェクトを通じて、人材科学センターとして今後はグループ全体の人事に対して、どのような役割を担うのでしょうか?

向坂:基本的にはグループ会社それぞれの人事が独立して意思決定をする体制をつくっています。人材科学センターとしては、得られた分析結果を、各社の人事部門が意思決定していくための判断材料としてフィードバックし、時にはアドバイザーとしての役割を持ちたいと考えています。

今回修得した分析スキルを活用し、今も継続して分析・フィードバックを行なっています。実際に各社の採用担当、労務担当からの問い合わせや相談が増えていますので、このプロジェクトを通じて、人事のデータ活用に対して着実に社内温度が上がっていることを肌で感じています。

ネクストステップとしては、各社の人事担当者が自ら分析を行ない、課題発見をしていく状態が理想です。そのために、人材科学センターとして「人事データの活用の必要性」はグループ全体に投げかけ続けたいと思っています。

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