近年、MLBを筆頭にNPBでもデジタル技術が活用され、野球界に大きな変化が起きています。しかし、アマチュア界、特に高校野球については、少しずつ変化が見られるものの、遅れをとっている部分が多々あります。今回は、そんな高校野球の中で先進的な取り組みをしている、広島県の武田高等学校野球部についてご紹介します!
「“フィジカルとデータで高校野球界の常識を覆す”データを駆使し、新たな時代への挑戦」
武田高校は、大学進学に力を入れているため夜間にも授業があり、平日の練習時間はどの部活も50分程しかなく、18時には練習が終わります。また、スポーツ推薦の部員がおらず、グラウンドは他の部と兼用のため、範囲が限られているなど様々な制限があります。
しかし、先進的な指導により、2020年夏の高校野球広島大会では、強豪、広島県瀬戸内高等学校を破り、初のベスト4まで進出しました。
さらに、2019年には部員の谷岡楓太(たにおか・ふうた)選手が同校で初めてドラフト会議で指名され、プロ野球選手となりました。谷岡選手は中学時代有名な選手ではありませんでしたが、最速121キロだった球速が3年次には152キロにまで更新し、一気にスカウト注目の選手となりました。
そんな武田高校を引っ張るのが、岡嵜 雄介(おかざき ゆうすけ)監督です。
効率的な育成システム 「みんなでやる練習が50分なだけ」
武田高校野球部では、全体でのランニングもなければシートノックもありません。
部員それぞれが、表の中からメニューを選択し、相談を進めながら決めています。
平日の練習時間は、先に述べた通り50分程度です。しかし、「みんなでやる練習が50分なだけ」であると捉え、各自の自己練習、データによる技術向上、理論の勉強など、練習時間外でも野球について勉強することにより、選手らは、「今、何が必要なのか」自ら考えた上で指導者からのアドバイスを受けることができ、長時間の練習よりも身になっていくと言います。
フィジカル×データ
トレーニングは、数多くのプロ野球選手を指導する野球専門のトレーナーが監修し、科学的に考え抜かれたメニューとなっています。例えば、よく行われている腹筋やウエイトトレーニングは、バランスを崩すといい、様々なメソッドや器具を取り入れながら、それらを野球の体の動きにあったトレーニングに変えています。また、「けがをしないために柔軟性や可動域を広げるトレーニングをする」といったように、それぞれの練習には理由があり、なぜやっているのかわからない無意味な練習は一つもありません。
さらに、武田高校野球部では20項目以上のフィジカルデータを部員全員が月2回測定します。データをより正確に取得するため、ランニングのタイムもストップウォッチではなく測定機器で正確に測ります。
取得されたデータは、部員が見ることができるようwebで共有し、数値を目標にすることで、努力の方向性も明確になると言います。
実戦が練習
実戦を重視する武田高校では、部員が戦うリーグ戦を、年間50試合行っています。
ノックの代わりに実戦で守備の経験を積み、3年間で1500打席を目標にしていることが大きな特徴です。
また、部内リーグ戦でも、詳細なデータを取り、部員それぞれの投球や打撃を分析します。
試合途中でも、動画を撮影、確認、時にはインカムで捕手と監督をつなぎ、配球について話しながら試合をすることもあります。
「基礎練習は大事ですが、基礎ばかりでは基礎の大切さがわからなくなる。だから、試合をやって失敗して、どうすればいいの?と考えさせてから基礎をやったほうが入ると思う。部内リーグにはそういう意味もあります」と岡崎監督は言います。
部内リーグでもチームのweb上にグループを作り、動画を投稿してアドバイスし合ったり、反省点を話し合ったりすることも活発に行っています。グループには監督、コーチも入っており、選手の相談にすぐに応えられるようにしているということです。まさにDX。
勝利至上主義化している日本の高校野球界に新たなる価値観を提示
武田高校は、建学の精神として「世界的視野に立つ国際人の育成」を掲げています。
野球部もこの建学の精神を活動目的とし、世界的に視野に立つ国際人へと育つ環境を整えており、「勝っても人間的な成長が伴わなければ意味がない」と考えています。
今回はデータを駆使し、先進的な取り組みをおこなっている武田高校も紹介をしましたが、このような武田高校の取り組みは、スポーツ業界だけでなく様々な業界にも通ずることがあると思います。惰性でやってしまっている取り組みは、本当に意義のあることなのでしょうか?デジタルを駆使し、生産性を上げ、上達する。これぞDXです。
高校野球界に新たなる価値観を提示している武田高校野球部の、今後の発展にも注目です!
参考
Number 記事:
https://number.bunshun.jp/articles/-/840177
未来コトバジメ:
https://project.nikkeibp.co.jp/mirakoto/atcl/sports/h_vol1/
武田高校 硬式野球部 Zebras:
http://takeda-baseball.blogspot.com
この記事を書いた人
名前:獅子鹿 孔(シシカ コウ)
所属:立正大学データサイエンス学部データサイエンス学科2年生(2022年4月)
高校まで12年間野球を経験。高校時代、映画「マネーボール」に出会いセーバーメトリクスに興味を持つ。データの重要性、面白さを実感し、大学ではデータサイエンスを専攻。2021年9月よりデータ分析企業でのインターンシップを開始。
趣味は、一人旅。