【インターンコラム】 名著に学ぶ 考える熱と耐え忍ぶ強さ

【インターンコラム】 名著に学ぶ 考える熱と耐え忍ぶ強さ

本日は、このコロナ禍にぜひおすすめしたい本をご紹介します。

『未成年(原題:The Children Act)』
 著:イアン・マキューアン 松村潔訳
https://www.shinchosha.co.jp/book/590122/

本書のテーマは「信仰が医療を妨げるとき、何が命を救うのか」ということ。主人公は60歳を間近に控えた一人の女性裁判官、フィオーナ・メイ。そんな彼女のもとに、信仰から輸血を拒む少年の審判が持ち込まれる。彼が成人であれば輸血の拒否は認められた。しかし、彼は成年まであと数か月たりない。一方で、未成年を理由に保護をする対象としては、彼はあまりにも聡明で思慮深い。宗教と法と命の狭間で言葉を重ねる二人。彼女が下した判決とはいかに?

私がこの本を読み最も心打たれたのは、フィオーナ・メイの真面目さです。実は、彼女はこの審判と並行して、35年間連れ添った夫と出会って以来の危機に陥っています。発端は、夫の「若い女性との関係を認めてくれ」という言葉。私たち読者は、彼女が混乱した感情に弄ばれる少女のような心を隠しもっていることを知る一方で、裁判官として常に冷静な判断に努めるメイから目を離せません。そこに見えるのは知恵と責任を持った者の心意気。法を杓子定規にあてはめるのではなく、言葉と現実の狭間を丁寧に紡ぐ彼女。その姿から「考えることを止めず、腐らないこと」はこんなにも強いのか、と改めて学ぶことができます。

 

また、この本を語る上で忘れてはいけない要素が、ピアノです。メイが奏でるピアノは、物語に静かな熱を与えています。ゆらゆらと揺れる心情、妥協したくない気持ち、ピンと張りつめた緊張感が、メイのピアノから豊かに聴こえてきます。それらの音に耳を澄まし、何とかメイを理解しようと、私たちは能動的にページをめくることでしょう。

未成年に対する大人、法(言葉)に対する現実、二項対立的に考えてしまいがちなそれらは実はつながっていて、渚のように混じる場所がある。そこで無理やりに境界線を引くのではなく、それらを認めつつ判断を下す。そんな“繊細さを諦めない”ことは、いまの私たちに通じるものがある気がします。

コロナ禍で、人々はそれぞれの事情でそれぞれの経験をすることと思います。大切なものを失う人、気を病む人、無事に災禍を免れる人、何かを学ぶ人、何も学ばない人、ゆっくりと休む人。それらは良い悪いではなく、そういうものだと思います。私は対岸の火事のような非現実感と、日々報道される医療の生々しさのギャップに困惑していました。はらはらしながら国の判断を追い、家でもくもくと生活を送る。そんな私に、考える熱と耐え忍ぶ強さを与えてくれたのが「未成年」でした。

(この記事を書いた人)

ワイワイ 20歳

某大学データサイエンス学部に在籍中
趣味はバスケ。字をきれいにしたい。

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